遺産の放棄に失敗した人

遺産の放棄に失敗した人

親の遺産!?

「絶対に私が独り占めにするんだ」という考えの人、

「遺産なんていらいない」という考えの人、

みんなで公平にわけようという考えの人、

遺産を承継する権利のある人、いわゆる相続人でもその考え方はさまざまです。

もちろん、親が生前に「遺言」を残していれば、原則的にそれに従うことになりますが。

さて、一般的に相続(遺産の承継問題)については、

「プラスの財産が上回れば承継し、下回れば放棄する」

と考える方が多いでしょうか。

あるいは、プラスの財産が上回るけれども、自身は放棄し、長男・長女など特定の相続人に承継させるといった内容の遺産分割協議をするケースも少なくありません。

今日は、遺産を承継した人ではなく、「放棄をした人」について書いてみます。

平成31年4月8日に亡くなった田中太郎さんには、妻田中美香さん、長男田中一郎さん、長女田中和子さん、次女田中美由紀さんの4人の家族がいました。

田中太郎さんは生前、ボタンひとつで原動付自転車(原付バイク)を駐車させる装置(実際に足でスタンドを蹴ってたてかけるのにはそれなりに力がいる)などを発明し、近所では有名な発明家として活躍していました。

亡田中太郎さんの相続人である妻と子3名は、田中太郎さんの唯一の遺産である実家を、第2代発明家としてやっていく決意をした長男田中一郎さんに承継させる遺産分割協議を行い、無事に実家は田中一郎さん名義に変わりました。

それから、2年後、、、、
田中一郎さんのもとへ一通の催告書が送られてきました。

田中一郎 殿

平成25年8月に発明資金として、太郎さん3000万円を貸し付けていた加藤一雄といいます。貴殿が、田中太郎さんの相続人であることは、太郎さんの自宅名義が変わったことで知り、その返済をお願いしたく本書を差し出しました。つきましては・・・・

一郎さんが、加藤さんの催告書に対する返事をしないでいると、長女である田中和子さんのもとにも、3000万円の返済をせまる催告書が送られてきました。

私は、遺産を放棄したので、関係ありません!!

和子さんからすれば、当然の発言ですよね。

ですが、結論から言うと、和子さんは3000万円の借金のうち、500万円を支払う義務があります。

なぜならば、「遺産を放棄する」には、「家庭裁判所に対する相続放棄の申述」を行わなければならず、単に遺産を放棄するといったり、一切の遺産を受け取らなかったりするだけでは、遺産を放棄したことにはならないからです。

今回の場合、和子さんは長男一雄さんに実家を承継させることに同意したので、法的にいうと、遺産を処分したことになります。

したがって、プラスの遺産を承継したか否かにかかわらず、法律に従ってマイナスの遺産を承継することになってしまうのです。

ちなみに、今回のケースの場合、妻美香さんは1500万円、子3人は各々500万円の合計3000万円の借金を相続することになります。

もちろん、加藤さんから催告書がきた時点で、相続放棄の申述をすることができる可能性も残されていますが。

相続放棄をする際には、注意が必要ですね。

© 司法書士法人 blue ship